意味から始める情報学

「マスゴミ」。なぜ、メディアが供給する情報はイマイチ信頼できないのか。それは意味がわからないからだ

会計監査とは④言明とアサーション

  さて、前回までに財務諸表の信頼性を検証するにあたって、その前提として財務諸表項目の意味を考える必要がある、その意味に対して監査の手続きが選ばれる、という話をしました。また、その意味は会計のルールに照らして明らかにできるということもお伝えしました。今回は同様の内容を監査論という学問においてどのように整理されているのか、理論的な体系をお伝えしたいと思います。特に重要となるのが、「経営者の言明」と「アサーション」という概念ですが、アサーションについては前回のブログで既にお伝えした内容でもあります。

 そして今回の内容は「財務諸表監査」(国元書房、鳥羽至英ら2015)の記述を引用しながらお話していきたいと思います。この本は「経営者の言明」及び「アサーション」の概念を中心に据えた財務諸表監査の概説書です。最終的に監査の対象になるこれら2つの概念について、ここまで丁寧にかつ深堀して解説している本を私は他に知りません。以下に示していくように、財務諸表監査を理解するには、「財務諸表とは何か」というところを出発点に「経営者の言明」、「アサーション」という概念にたどり着くまでの過程を理解する必要があります。

  そもそも財務諸表とは何でしょうか。財務諸表には貸借対照表や損益計算書、キャッシュフロー計算書があるというのはすでにお伝えしました。そしてその作成責任は一にも二にも経営者にある、ということもお伝えしました。経営者の産物である財務諸表と会社の外部者である監査人の監査とはどのような関係にあるのでしょうか。

 「財務諸表監査」によれば

「財務諸表とは、経営者が企業の事業活動に関連して生起した取引(経済的事象)を会計ルール(GAAP)に準拠して認識・測定・表示するというプロセス(会計プロセス)を経て作成したアウトプットであり、経営者の言明である」(p197)

といいます。財務諸表の英訳はfinancial statementですが、statementには言明という意味があります。そして、言明とは

「真偽または確からしさを決定することのできる主語と述語からなる文」(p20)であり、「真偽を決定(証明)できるのは、われわれが当該言明の意味(アサーション)を知っているからである」(同上)。

さらに同書を引用します。

「財務諸表監査は会計プロセスのアウトプットとして財務諸表を監査の主題とする。財務諸表の表示(項目と金額)には経営者の会計上の主張が含まれており、これがアサーションにほかならない。監査人は財務諸表に含まれているアサーションを識別し、それを監査手続きによって裏付け、当該アサーションについての信念を形成する、これが監査人の従事する認識の基本的内実である」(p190)。 

 会計上の主張、すなわちアサーションについては前回のブログの内容を見て頂ければ理解できると思います。財務諸表上の現金預金や売上の持つ意味(これがアサーションです)を明らかにし、その意味に対して監査手続きが選ばれるのです。今回注目して頂きたいのは、財務諸表自体が経営者の言明であって、その言明には経営者の主張、すなわちアサーションが含まれているという、「財務諸表は経営者の主張である」という考え方です。どういう主張かというと、繰り返しになりますが、例えば現金預金100万円は会社に帰属している、だとか売上1,000万円はすべて当期に帰属する、といった主張です。

 以上を踏まえると、監査とは「経営者の言明の信頼性を検証し、保証している」といえるのです。つまり、まず経営者の言明である財務諸表、そしてその意味であるアサーションがあって初めて監査が成立しうるということなのです。これを同書では「言明の監査」と呼んでいます。(なお、同書では非言明の監査も紹介しておりますが、ここでは割愛します)

 この構造は監査手続きにも影響することで、

「言明の監査の最大の特徴は、監査の主題たる言明自体が監査人の行うべき認識の方法と範囲を実質的に決定しているというところにある」(p356)。 

 例えば会社が他の会社の株式だとか社債を持っていれば有価証券として貸借対照表に計上されます。しかし、意図的かどうかはともかく、計上されるべき有価証券が一切計上されていなかった場合、監査人は有価証券の実在性だとか適切な金額で計上されているかといった検証の手続きを少なくとも最初の時点では計画しません。基本的には財務諸表に計上されている項目と金額を対象に手続きを計画するのです。仮にあらゆる会計事象の発生を想定して、計上がない項目についての手続きをすべて検討した場合、あまりに膨大になってしまうでしょう。

 

 この点、計上がない項目について監査が虚偽表示を見過ごしてしまう可能性は否定できないでしょう。しかしながら、例えば有価証券の計上もれがあれば、購入した際には現金の流出があります。配当があれば現金の流入もあります。したがって、現金預金など他の科目が監査されていれば、不整合に気づく可能性が大きいので、一概に監査で掬いきれないとは言い切れません。いずれにせよ、まず財務諸表という経営者の主張ありきなんだ、ということを覚えておいて下さい。

 

 これはある主体が何かしらの情報を提供する際に、その情報が信頼できるものであることを主体自ら主張する場合に、本当にその主張が信頼できるのか検討する際に広く応用できる考え方です。すなわち、情報の出し手がその情報の適正性に責任を持つときには、その情報の意味を明らかにすることができるという前提があり、したがってその情報の適正性を第三者からも検証できる。だから、その情報は信頼することが可能だ、という論理構造を立てることができるのです。

 

 私がこのブログを通じてお伝えしたいのは、マスメディアは自分たちが提供する情報について、「その情報は誰の言明なのか」、その上で「その情報の意味はどのようなアサーションで構成されますか」ということを明らかにすべきだということです。